
一瞬ガスが切れる、茶臼岳 (撮影:避難小屋前)

小屋手前の岩で風を堪える

避難小屋の中は3゜Cであった

吹き荒れる強風 茶臼岳

避難小屋の小窓から剣ヶ峰を見る

避難小屋から、下山中の夫婦

振り返る、避難小屋と剣ヶ峰

鬼面山の笹と紅葉

諦めきれずとにかく行って見ようと、、、
|
今日の風は尋常ではなかった。 峠の茶屋避難小屋までで限界だった。 耐風訓練となってしまった。 台風並の発達した低気圧が日本列島を駆け抜けたのである。 今日の北海道や東北地方では大荒れの天気予報であるが、関東以西は穏やかな晴天というものであった。 家を午前2時半に出る。 那須の峠の茶屋駐車場には途中のコンビニで食料調達もして4時半に到着した。 本来ならもう少し遅くても良いのであるが、混雑が予想されるので下山を早くするために早朝の4時のスタートする予定であった。
しかし、現地は雨と強風でぎっしり詰まった駐車場は静まりかえって誰も車外に出る者はいなかった。 それでも5時半過ぎには日の出にあわせてカメラを構える者もいたが、 吹き荒れる風に直ぐに車に戻っていた。
6時過ぎにはトイレに列が出来、山に向かう人たちが準備する姿も見えはじめた。 山部はすでに到着時から準備完了でスタートのタイミングを計っての仮眠だ。 しかし今日の那須の風は強烈だった。 山部がスタートするまでに50人くらいが風を受けながら発った。 その後も登山者は続いた、バスで来たツアーの人たちも様子をみているようだ。
「なな」とはロープでつないで整備された道を進む、いつもはカラッとしている所も濡れている。 先を行く人、戻る人を交わしてどんどん進む。 歩くにつれて風は強くなり、体は押されたり引かれたりするようになる。 登山道案内板「峠の茶屋0.7K
峰の茶屋0.8K」)の埋め込まれた構築物から待機の人が増える。 しかしこの辺はほんの序章に過ぎず進むにつれ風はますます強くなる。
チェーンの設置されている手前でこれまでと引き返す人たちが岩陰に座りこんでいる。 我ら山部「なな」隊はそこを一気に通過してチェーンの下の道を進みやや沢状の窪地に来る。 ここには進退叶わず岩にうずくまる数組がいた。 いよいよこの道の核心部へ一歩一歩風の息を見計って歩きながら1678m標高点付近に差し掛かる。
ピシと太ももに痛みが走る、目にも留まらぬ勢いで飛んできた小石が当たった。 砂状の小石が顔面に当たる、メガネを掛けているので目には入らないがヘルメットとゴーグルが必要だ。 「なな」は元々態勢が低いのでまともに風を受けないようであるが、それでも時折風に煽られて山部の陰に身を寄せる。
風に翻弄されながらも道がカーブしている所に到達する。 振り返るも後続は見えない。 足元は水が流れやや沢状である避難小屋手前の土留めの所では風がやや弱くなったが、まともに受けないだけで弱いなんて表現は到底できない。 とてもザックからカメラを出せる状況出ない。 最後の避難小屋の手前の岩に到達である。 以前ここの峰の茶屋で体ごと明礬沢へ飛ばされて亡くなった方の話を三斗小屋のお母さん(おばさん)から聞いている。 あと、15mの距離を風の大きな息を見計らって背を屈めて一気に小屋に突進した。 今まで小屋入口の配置などを考えたことはなかったが、L形の小屋にたどり着くと納得の防風配置であることが解った。 ほうほうの呈で小屋に入るとなんと先着のお二人がいた。 山部の前には誰も歩く姿はなかったのだが。
何時に歩かれたのだろう、たずねるとお一人は昨夜一泊されたと言う。 昨日は雨で三斗小屋へ集団組はザイルを使って向かったと言う。 個人一人では無理と判断してここで一夜を明かして朝を待っていたようだ。 シュラフは持っていないようだ、とても寒かったとの事だ。 あと一人は若者で空身で歩いて来たのである、感じの良い方でしばらくして二人共に下っていった那須の強風体験という所だろうか。
入れ違いに簡易の雨具を着けた若者が来た。小屋の中から見ていたが中々最後の岩からこちらに来られない。 絶えず二重の内側の戸が風で動く、ドサーと戸が動く転げ込むように、すぐに安堵の顔に何か充実感させあるように見えた。 今日ここに来た三人目である。 その後300mにブルーの雨具姿が見え、後続は見えない。 その後若者も下っていった。
小屋の中の温度計は3℃を示している。 石の飛ぶ風速はどのくらいだろうか、小屋にも時々石の当たる音がする。 小窓から風見ると、剣が峰を高速でガス越えて行く。 飛行機の翼の上辺のように強い風がさらに高速になるのだろう。 那須の強い風は奥日光尾根の北側を一気に進み三依横川から男鹿岳を越えて一気に大川(那珂川の源流)に沿って姥ヶ平からここに集まって朝日岳と茶臼岳の間を吹き抜けるのだ。 栃木の山で実際にこれほどの風を体験したのは初めてだ。 (日光の前白根、五色山も風の通り道で冬の寒さもピカ一だが)
「なな」と静かになった小屋で食事でもと思っていると、突然小屋の戸の音が夫婦連れが入ってきた。 三斗小屋からと言う、エッと疑ったが、この風の中を歩いてきたのである。 最後のガレ場を上がって来たのである。 自殺行為だ、当人たちもしばらくは生きた心地がしなかったと話を止めなかった。 落ち着いてからヒザの切り傷の手当をしていた。 三斗小屋からは強風の時は沼原、板室に下るのが常道だろうが、車を湯本に置いてあると無理をしてしまうのであろう。 今日無事に避難小屋に着けたのは幸運と言うほかないだろう。 那須の風を侮ってはいけないと肝に銘じよう。
ブルーの雨具の方が引戸から入ってきた。 見慣れた顔である、2002.02の茶臼岳の時凍てつくここで会った。 剣が峰山頂から沢へ尻セードで下って行った、その後を山部も下った時のあの方だった。 今回は三脚を持っていた、絶好の紅葉日和を狙ったのであろう。 様子を見ていたが午前中は少なくても天候の改善はないと最終判断して、下山することとする。 ご夫婦も降りるという、山部たちの後に続いた。
下りの勢いを風に押されて早足になり、岩に手掛りを得て事なきを得た場面もあったが、一般者の集まっている所に来ると風はそよ風かと思った。 そこはガスは晴れて鬼面山の緑と紅葉のコントラストが鮮やかに見えた。 あー残念、今年の那須の紅葉見物を逃してしまった。
下山途中に住信松下社のH氏に会ったこれからと歩き始めたとの事だ、那須の風を感じるのも良いのではと言って分かれた。
この日、北アルプスの奥穂高岳や白馬岳では吹雪のための遭難のニュースが流れた。
地図も大切だが天気を読むのも大切だ、どちらも命取りになるこれからの季節は特に注意が必要である。
この後、帰路の途中でふらりと板室の「乙女の滝」と「コタ山」を歩いた。
(この日の午後は、コタ山 こちら>>です。) |