【『内務省』刻字の標石】
新潟市秋葉区満願寺の国土交通省阿賀野川河川事務所満願寺出張所入口に刻字『内務省』標石がある。 この標石は阿賀野川改修工事(大正四年六月起工、昭和九年三月竣工)のため内務省新潟土木出張所が設置したものである。 標石の埋標観測は参謀本部陸地測量部による。 標石を阿賀野川改修工事基標として設計施工に使用したものである。
標石寸法・刻字は上辺24.5、下辺32センチメートル、地上高44センチメートルの頭載方錐柱で上面には東西南北に対角線が刻まれており端には「北」「東」「南」「西」の刻字があり、南西面には横書「11M723」、縦書き2列「陸地測量部 水準基面上」、北東面には「内務省」の刻字がされている。
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【阿賀野川改修工事とは】
阿賀野川は新潟平野へ出ると大きく蛇行し流域は常に洪水の脅威にさらされていました。 旧新津市満願寺付近で小阿賀野川と阿賀野川が合流する。 小阿賀野川は阿賀野川と信濃川を結ぶ水路として宝暦年間(1750年)に開削しその後新発田藩が改修し舟運に利用した。 水路は自然分派のため水位の高い阿賀野川から付近は洪水にさらされていました。
阿賀野川は元は松ヶ崎付近で左折し海岸に沿って流れ、信濃川に合流して海に注がれていた。 享保年間新潟港を洪水から免れるため松ヶ崎を開墾して阿賀野川河口した。 その後土木局により明治16年から18年に渡り数箇所に堤防工事、満願寺村横越村の各箇所に水工事をした。 しかし、洪水防御に関し一貫した計画による工事を施工したわけでなかった。
両側に堤防はあるが屈曲迂回が極めて不規則に対峙しあるため洪水氾濫著しくその洪水は甚大なるに鑑み大正四年度より十二年度に至る九箇年継続事業として開始した。 その後二度期間を延長し予算も増額し昭和八年度まで施工する事業であった。 (出典:「阿賀野川改修工事概要工事概要」「沿革ト其ノ事業」
内務省新潟土木事務所 P 1, 2 新潟県立図書館蔵)
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上面、「東西南北 ×」の刻字 |

南西面、「11M723」「陸地測量部」「水準基面上」 |
【載頭方錐形標石】
載頭方錐形標石とは、堅苦しい名である簡単に言えば四角錐(ビラミット形)の頭をカットした形である。 新潟県にある明治期の内務省や新潟縣標石は上部をすぼめた載頭方錐形としたのであろうか。 (新発田市小坂の標石も同じ形(少し小ぶりである)である。)
【満願寺標石の刻字と設置】
側面に「内務省」「11M.723 陸地l測量部 水準基面上」、上面に「×
東西南北」の刻字が見られる。
* 「内務省」と「陸地l測量部」の二つの名が刻字されている意味はなぜか。
「阿賀野川改修工事概要」には、『享保年間新潟港を洪水から免れるため松ヶ崎を開墾して阿賀野川河口した。 その後土木局により明治16年から18年に渡り数箇所に堤防工事、満願寺村横越村の各箇所に水工事をした。 しかし、洪水防御に関し一貫した計画による工事を施工したわけでなかった。』とあり、内務省は改修工事での失敗は許されない。 当時の近代技術の粋を使ったもので施工に当たった、その中で河川改修で重要なのは正確な測量に基づいた設計施工であり、内務省は基準点設置を測量最先端技術を当時持っていた、参謀本部陸地測量部が測量標石を設置したものである。
「阿賀野川改修計画書縦断面図」に、「基標 参謀本部 水準基面=O」と記され、各地点の基準面からの高低の数値が記されている。
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「阿賀野川改修工事概要」 新潟県立図書館蔵 |

地図の中心の所に、「満願寺」がある |

上図のアップしたもので、中心の"満"付近に基標がある。
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阿賀野川改修計画書縦断面図 (全体) |

中心に「満願寺」がある |
【満願寺近傍図の変遷】
@ 改修工事以前の図では、羽越本線が白線で記入されている。 A 地形図では、陸地測量部の測量が完成しほぼ現在の地形図になる、羽越本線も記載された。
B 改修堤防が阿賀野川を閉切ったために三日月湖が出来た。 C 三日月湖は消え、中は耕地整理が終わった、焼山の地名が見える。この頃付近の水準点(従来のBまでの乃号二等水準点)や三角点の改測、設置された。(下里に新標石 号) D
この図までは阿賀浦橋(旧橋)である、京ヶ瀬駅が記された。 E 阿賀浦橋が架けかけられ、橋桁が長くなりました。満願寺周辺の道路は現在のと同じとなる。
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@満願寺「古渡場」「乃号水準点」あり
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A羽越本線が書かれている
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B改修堤防が完成、流れが変わる
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C満願寺に記念碑マーク(水準点基標か)
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D改修堤防完成・旧橋のまま
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E長い橋の新阿賀浦橋になる
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「沿革ト其ノ事業」(内務省新潟土木事務所刊)には、阿賀野川以外の北陸地方の河川改修工事があった富山縣だけでも「黒部川」「早月川」「常願寺川」「神通川」などの改修も行われたとあるので、阿賀野川以外の河川にも基標設置が考えられる。 内務省東京土木事務所で施工した渡良瀬川改修工事では基標の存在は見つけられていない。 その代わりの水準・三角標石(栃木縣名記載も含む)多数確認されている。
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